特定非営利活動法人日本皮革技術協会の創立について
 

特定非営利活動法人日本皮革技術協会の創立について

特定非営利活動法人 日本皮革技術協会

代表理事 杉田正見

 

1.はじめに

皮革と人類との関係は古く、人々の日常の暮らしに欠かせないものとして、また、人々の生活にとって必要不可決な素材として、衣料品や装身具など、はるか古代より活用されてきました。

この人々に必要不可欠な素材である皮革に関する技術の向上と、関連する学術的研究及び知識の普及を目指し、東西の有力者により昭和 30 年 5 月( 1955 年)に、わが国唯一の皮革に関する学術団体として「日本皮革技術協会」が設立されました。

同年 10 月には「日本皮革技術協会誌」の創刊号が発行され、初代会長鈴木京平先生が“創刊の辞”の中で、現在わが国の皮革産業を取り巻く学術的な環境は非常に未熟であるが、学術的研究者は現場の経営者や技術者と密接な連携を保ち、原料皮はもちろんのこと、製造工程中の諸現象を科学的、理論的に研究することにより総合的知見を発揮する時代が必ず来ると明言されています。そして、わが国皮革産業の発展のために本協会の使命の重大さを論じられています。

創立当初の会員数は賛助会員 32 社、正会員 303 名という状況でしたが、諸先輩のたゆまぬ研鑽の結果、 55 年間という長い歴史を歩んで参りましたが、その歩みと法人化へのステップを振り返ってみます。

 

2.当協会の功績

 設立当初の会員数は約 300 名、賛助会員 32 社でしたが、鈴木京平会長、清水誠、新田愛?副会長のもとで関東、関西の2支部を設け、輝かしいスタートをきりました。その後、会員数の変遷もありましたが、日本皮革技術協会協会誌の発行、数多くの講習会、シンポジウム、見学会、研究発表会等を行ってきました。その主な業績について振り返ってみます。

 

2.1  学術雑誌および刊行物の発刊など

日本皮革技術協会誌は皮革化学、皮革科学と名称を変更しましたが現在まで 55 巻を発刊することができ、コラーゲン・ゼラチン、毛、ケラチン、原料皮、皮革製造技術に関する学術論文や技術情報、皮革産業の新しい情報・資料等を数多く掲載し、研究者の研鑽、業界の技術者育成、製革技術に関する新しい知見、応用技術などわが国皮革産業の発展に大きく貢献してきました。

この皮革科学誌等に掲載された内容を表 1 に示しますが、コラーゲン・ゼラチンに関する項目にはじまり製革技術、試験法・革の特性、廃水・廃棄物など様々な項目について情報発信を行ってきました。

また、当協会は「革および革製品用語辞典」、「日中英皮革用語辞典」、「総合皮革科学」、「新版皮革科学」、「皮革ハンドブック」など皮革技術に関する刊行物を多く発刊し、経営者や技術者への知識向上に貢献するとともに、消費者にも皮革の正しい科学的知見の習得、啓発等に役立つ資料として活用されています。これらの発刊書籍は殆ど在庫がなく再発刊が強く望まれている現状です。また、(社)日本タンナーズ協会と共同で「皮革工業誌」を出版し、多くの方々から貴重な資料として活用されてきました。

表 1  皮革科学誌の総説・論文・技術ノート等の内容

項  目

1 〜 10

11 〜 20

21 〜 30

31 〜 40

41 〜 50

51 〜 55

コラーゲン・ゼラチン

0

13

30

13

9

2

原料皮*

25

14

9

12

1

5

準備作業

20

24

4

6

12

1

クロム鞣剤と鞣し

21

6

10

6

1

1

植物タンニン及び鞣し

23

2

3

3

4

 

その他の鞣剤と鞣し

21

8

12

13

7

1

再鞣・染色・加脂

6

17

13

21

14

3

仕上げ作業

5

 

7

12

13

 

革の性質及び試験法

19

50

22

32

49

3

廃水処理

8

2

10

4

1

2

副産物、廃棄物利用

 

4

7

4

14

 

毛皮

 

7

 

5

14

2

その他

22

31

23

35

107

28

149

178

150

166

246

49

 

22.製革技術の研究・開発事業など

 当協会は昭和 46 年度に中小企業事業団より「多目的ドラムの開発」と題する開発調査設計研究委託事業を受託したのを始めとし、経済産業省、中小企業事業団、(社)日本皮革産業連合会、(社)日本タンナーズ協会などから技術開発の支援や委託を受けて、様々な課題の大型開発研究を推進してきました。その主な課題は以下の通りです。

1)経済産業省支援事業

 当協会は経済産業省の支援を受け、大型実用化開発事業を推進し、各課題に対する基礎的知見を得て(社)日本タンナーズ協会のウェットブルー利用技術試験事業、クロムリサイクル試験事業、省クロム鞣し試験事業、非クロム鞣し試験事業等に大きく反映させた。

 昭和 48 年度:ピックルハイド(毛付原皮を含む)品質鑑別法の確立と品質保存に関する研究

 昭和 49 年度〜 50 年度:製革排水の循環利用による無公害化プロセスの開発研究

 昭和 51 年度〜 53 年度:皮革産業における副廃物の高度利用及び無公害処理方法の総合的開発研究

 昭和 54 年度〜 56 年度:クロム鞣製のクローズド化試験研究―クロム鞣革(ウェットブルー)の再鞣技術の開発研究

 昭和 57 年度〜 60 年度:非クロム系鞣製剤開発事業

 昭和 61 年度〜 62 年度:非クロム系鞣製剤開発事業―実用化試験

 昭和 63 年度〜平成 1 年度:非クロム系鞣製剤開発事業―準備作業

 平成 2 年度〜平成 4 年度:非クロム系鞣製剤開発事業―ウエットホワイト

 平成 5 年度〜平成 13 年度:非クロム系鞣製の開発実用化事業

 平成 14 年度〜現在:環境対応革開発実用化事

2)中小企業事業団開発調査設計研究委託事業

 昭和 46 年度:多目的ドラムの開発

 昭和 47 年度:製革業の自動連続化設備の開発

 昭和 48 年度:自動連続乾燥装置の開発

 昭和 49 年度:自動塗装機(静電塗装)の開発

 昭和 50 年度:原料皮鮮度判定装置の開発

3)(社)日本皮革産業連合会委託事業

 昭和 61 年度:高耐水性革に関する研究開発

 昭和 62 年度:高耐水性革に関する研究開発(実用化)

        カラーマッチング技術に関する研究開発(昭和 62 年度〜平成 1 年度)

        コバ磨機の開発

 昭和 63 年度:皮革に関する研究開発(調査)

 平成 1 年度 :皮革の染色技術の研究(平成1年度〜 2 年度)

 平成 2 年度 :国際的に通用する皮革素材等の研究開発 ( 平成 2 年度〜平成 6 年度 )

4) ( 社 ) 日本タンナーズ協会との協力事業

 昭和 57 年度:ウェットブルー利用技術実用化試験事業

 昭和 59 年度:クロムリサイクル試験事業

 平成  2 年度:省クロム鞣し試験事業

 平成 20 年度:非クロム鞣製実用化事業

 

2.3  その他の活動

 皮革に関する研究の推進を図るとともに創立当初から皮革研究発表会を毎年開催し、皮革の技術向上と新しい知見を数多く発表してきました。昭和 34 年度には国際皮革技術者・化学者会議( IULTCS )にも参加し、昨年 10 月に開催された第 30 回 IULTCS (北京)には 10 名の会員が参加し、新しい知見を世界に発信しております。

更に、平成 4 年( 1992 )には当協会の積極的な働きがけにより第1回アジア国際皮革技術者・化学者会議を中国・成都市で開催し、第7回までの会議がアジア各地で開催され、日本でも第 3 回及び第6回会議を 姫路市 で開催するなど国際的にも大きく貢献してきました。

 その他、製革業の技術者や経営者を対象とする皮革技術講習会を数多く開催し、わが国の皮革産業の技術向上に大きく貢献してきました。また、シンポジウムや座談会なども各地で開催しました。

 平成 13 年度からは、講習会の対象者をアパレル業界、卸、小売業、革製品の加工企業、クリーニング業、試験研究機関、各種専門学校などに拡大し、皮革に関する講習会を展開し皮革に関する基礎知識の啓蒙を行ってきました。

 

3.特定非営利活動法人( NPO 法人)日本皮革技術協会の設立

当協会の法人化への動きは設立当初から検討されており、昭和 31 年 11 月の臨時総会で法人化の手続きを完了し、 32 年 10 月の総会では社団法人日本皮革技術協会の定款が完成、文部省へ申請することが決定されております。そして申請もされましたが残念ながら認可されなかったという事実があります。その後も何回か法人化の動きがありましたが、実現せずに今日に至っていました。

しかし、今後の更なる活動の拡大、皮革の技術的向上と関連する学術研究の発展を考えた時、また、皮革に関する知識をもった人材の育成等、今後の課題をクリアしていくためにも、法人としての活動が必要不可欠であると考えておりました。

幸いにも、当協会は「日本エコレザー基準( JES )」を平成 18 年に設定いたしました。これを受けて(財)日本環境協会が平成 19 年に革製かばん・スーツケース等をエコマーク商品類型に追加し、 20 年度には靴・履物類にも範囲を拡大しました。更に 22 年度には革衣料、ベルト、手袋等に拡大する計画といわれている。

一方、製革業界から革素材にも日本エコレザー基準を拡大してほしいという要望もあり、革素材のエコレザー認定を推進することになりました。しかし、認定業務を行うには法人組織でないとできないので、当協会では認定業務を行うことは不可能でした。そこで法人資格をもつ皮革関連業界による認定業務の運用を検討してきましたが、色々な理由からいたずらに時間が経過していくばかりでした。

そこで、日本皮革技術協会を法人化するという計画が持ち上がりましたが、幸いにも JES の認定業務は(社)日本皮革産業連合会で行われることになり順調に運用されております。

 しかし、現在の日本皮革技術協会の立場は任意団体であり、これからの皮革産業の振興を支援していくためにも、また、経産省をはじめ各種団体からの補助金・寄付金等を獲得するためには非常に弱い立場です。

一方、皮革産業の最近の状況を見ますと、リーマンショックで世界同時株安、円高、安価な輸入製品の増加、合成皮革や人工皮革等の雑素材との競合、消費の低迷、デフレ傾向など様々な経済情勢の悪化により、皮革産業の経営状況は一層深刻な状況に見舞われており、将来の存続すら懸念されている状況です。

この状況を克服する手段として、消費者に安心して使っていただける「エコレザー製品」の普及と啓蒙、天然皮革という究極的特性の追求と情報発信、また、将来の大きな課題である低炭素生産技術による生産工程の合理化の推進( LCA レザーの推進)、皮を革に加工するばかりでなく生分解性材料への転換技術など将来を先取りした製革技術の研究など積極的に推進する必要があるでしょう。

これらの事業を推進してためには、会員、賛助会員のみならず 市民や行政との協働も進めなければなりません。このような公益的な観点からも、数ある法人格の中でも最も相応しいのは、特定非営利活動法人( NPO 法人)であると考えていた次第です。

この目標達成のため、平成 21 年 1 月に特定非営利活動法人の設立に向けて本格的な準備を開始し、同年 5 月の通常総会で特定非営利活動法人の設立に関して了承されました。この結果を受けて、同年 7 月に特定非営利活動法人の申請、同年 10 月に兵庫県から特定非営利活動法人日本皮革技術協会( NPO 法人)の設立が認可されました。

そして平成 22 年 2 月 26 日の臨時総会にて日本皮革技術協会から NPO 法人日本皮革技術協会への移行が承認され、続いて行われた NPO 法人日本皮革技術協会の設立総会で定款の承認、 22 年 4 月から残余財産及び会計を引継ぐこと等について賛成多数で可決され、この4月から NPO 法人としての活動を積極的に推進することになりました。

この NPO 法人日本皮革技術協会の設立総会に際して、皆様方より非常に温かいご支援をいただき心より感謝申し上げる次第です。皆様のご支援にこたえるべく、尚一層の努力をして名称に恥じない活動を展開して参りたいと思っております。皆様方の励ましやご支援に対し重ねてお礼申し上げます。

また、今後の活動には会員、賛助会員の全員が事業計画、事業の推進にあたるという開かれた団体として、皮革及びこれに関連する学術と産業の進歩・発展に寄与し、もってわが国の産業の発展・国民生活文化の向上に寄与したいと考えておりますので、皆様方の暖かいご支援をお願い申し上げます。